2011.08.01

カテゴリー【特集】

美唄自然エネルギー研究会に聞きました。雪冷房の先進地・美唄で目指す ホワイトデータセンター構想

雪の力が今大きく見直されています。あのじゃまでやっかいものの雪を「冷やす」資源として再活用する試みです。集合住宅や福祉施設の冷房に、あるいは農産物を保存する低温貯蔵に。2009年からは大量に熱を発生するデータセンターを誘致して美唄の雪で冷房しようという「ホワイトデータセンター構想」が始まっています。構想を推し進める美唄自然エネルギー研究会の本間弘達さんに解説してもらいました。

ホワイトデータセンター構想って何ですか?

PiPa(以下、―)本間さん、解説をよろしくお願いします。

美唄自然エネルギー研究会の本間弘達さん。同会が主宰する「ゆき塾」塾長も務める。

美唄自然エネルギー研究会の本間弘達さん。同会が主宰する「ゆき塾」塾長も務める。

本間 最初に基本的なことをお話しますと、皆さんがご自分のデスクでお使いになっているコンピュータをたどっていくと、大元にはホストコンピュータがあります。そのホストコンピュータを置くところがデータセンターです。

―たくさんのホストコンピュータが集まると、放出される熱が相当高くなるそうですね。

本間 データセンターを冷やすには巨大な空調電力が必要となり、企業側に膨大なコストがかかります。そこを積雪寒冷地である美唄の空知団地に誘致し、冷涼な外気と雪冷熱の双方で冷やす。それが「ホワイトデータセンター構想」(以下WDC構想)です。首都圏に比べると消費電力コストが削減され、CO2の削減にも貢献できます。美唄市さんと協力しながら、我々美唄自然エネルギー研究会が会を挙げて取り組んでいます。

―雪冷熱を使う「雪冷房」とは、どういう仕組みですか?

本間 冬に積もった雪を貯雪庫等に貯めておき、中で冷やされた空気や水を室内に送り出します。暖まった空気や水が配管を通って貯雪庫に戻ってくると、雪に触れることでまた冷やされて再び室内へ…そのくり返し。雪冷房は「冷水循環方式」「全空気循環方式」、そして両者を組み合わせた「併用方式」の3タイプに分かれています。

左)冷水循環式の雪冷房を導入する24戸の賃貸マンション。貯雪量は100トン。右)水空気併用循環式の介護老人保健施設。貯雪量は300トン。

左)冷水循環式の雪冷房を導入する24戸の賃貸マンション。貯雪量は100トン。
右)水空気併用循環式の介護老人保健施設。貯雪量は300トン。

左)JAびばい氷室貯蔵研究所では伝統的な「氷室」を活用。右)個人農家の米貯蔵庫でも雪山冷水循環式が活躍している。

左)JAびばい氷室貯蔵研究所では伝統的な「氷室」を活用。
右)個人農家の米貯蔵庫でも雪山冷水循環式が活躍している。

―通常の電気エアコンと比較して雪冷房の長所とは?

本間 まず使用電気料金が大幅に下がり、室内の空気も55~65%の適度な湿度を維持できて乾燥しすぎない。空気中の匂いや、化学物質などの有害物質を除去し、きれいな涼風が吹きます。いろいろな意味で「やさしい冷房」と言えるでしょう。

2010年から空知団地で実証実験がスタート

―WDCの誘致に向けて、2010年8月から美唄で実証実験が始まったと聞きました。

本間 産学官で行う美唄自然エネルギー研究会の中に、「美唄雪山プロジェクト」を立ち上げました。実験場所は国道12号線に面している総面積277haの空知団地。ここはWDCの誘致先でもあります。その団地内に建つ美唄ハイテクセンターの敷地内に約70トンの雪山を造成しました。雪山の下にはパイプを巡らせた舗装を設置し、雪解け水が落ちてパイプの中の水を冷やす。その冷却水をセンター2階のサーバールームに循環させる仕組みです。約8℃の冷却水から15~16℃の冷風が生まれ、広さ13m2のサーバールームを常時25℃以下に冷やしています。年間49万円の電気代を節約できます。

美唄ハイテクセンターのサーバールーム。設置された空調機の送風口に手を当てると冷風が勢いよく吹きつけてきた。

美唄ハイテクセンターのサーバールーム。設置された空調機の送風口に手を当てると冷風が勢いよく吹きつけてきた。

本間 ちなみに通常、雪山はあっという間に解けてしまわないようにチップに覆われている状態です。雪山の下にはホタテの貝殻を砕いて固めた透水性の高い舗装を使っていて、廃棄処理に困っていた貝殻の有効活用にもなっています。

取材時には小さくなってきた美唄ハイテクセンターの雪山に新たな雪を追加する作業が行われていた。

取材時には小さくなってきた美唄ハイテクセンターの雪山に新たな雪を追加する作業が行われていた。

―この実証実験の成果をもって、WDCの誘致に弾みをつけるというわけですね。

本間 今、世界的にもデータセンターの北上化が進んでいると言われています。3.11の震災以降、首都圏では15%の電力削減が叫ばれていますが、このIT社会でデータセンターを止めることは現実的には不可能です。となれば、大量の雪を蓄えられる広大な土地があり、自然災害が少ない内陸地の美唄に注目が集まるのはそう遠い未来ではない、と考えています。

「黒いダイヤ」から「白いダイヤ」へ

―特集後半は、本間さんたち美唄自然エネルギー研究会(以下、エネ研)についてお聞きします。

本間 設立は1997年、北国で"やっかいもの"扱いされる雪をどうにかして自然エネルギーとして活用することができないか、というテーマに関心を持ったメンバーが集まってできた産学官の共同研究会です。雪氷冷熱エネルギーに詳しい室蘭工業大学の媚山政良先生のもと、札幌や沼田町、岩見沢、砂川からも雪好きの人たちが続々と集まってきました。美唄はかつて「黒いダイヤ」と称された石炭で栄えたまち。平成の今は雪の「白いダイヤ」でまちを活性化しようと活動しています。現在は法人会員が22団体に個人会員が39名。業種も年齢も実に幅広く、だからこそ10年以上も続いているのかもしれません。

―WDC構想の要である雪冷房はすでに美唄市内の10カ所で導入が進んでいるとか。エネ研の代表的な活動実績です。

本間 これには少し"前フリ"があります。我々エネ研は月に一度美唄で例会を開いています。と言いながらも、大抵盛り上がるのは美唄焼き鳥の「福よし」で行われる二次会のほう。そして我々には「酒席での発言は絶対に実現すること」という恐ろしいルールがありまして。他にも「言い出した人間を日中他のメンバーは手伝う」「失敗しても責めない」という決まりのもと、数々の実績を残してきたわけです。で、雪冷房のときも不動産会社に勤めるメンバーが「雪で人を冷やせないのか」とぽろっと口を滑らせたのがすべての発端(笑)。

「永久凍土を見に行く!」有言実行ルールを守るため、2010年には名峰キリマンジャロに登った本間さん。当時64歳の媚山先生も同道した。

「永久凍土を見に行く!」有言実行ルールを守るため、2010年には名峰キリマンジャロに登った本間さん。当時64歳の媚山先生も同道した。

―うかつなことは言えない。
 確かに恐ろしいルールです(笑)。

本間 2008年に開かれた北海道洞爺湖サミットの時もそうでした。その前に酔った誰かが「雪を使って一年中桜を咲かせよう!」と言い出して。雪山の中に蕾の状態で保存しておいた桜を外気に触れさせると、「春がきた」と思って季節を問わずに開花する。そうやって実現した「雪山桜」を今度はサミット会場に持っていこう、とまた盛り上がってしまいました。あの厳重なセキュリティーを通過するまでの苦労は並大抵のものではありませんでしたが、おかげでサミット会場や首相官邸、VIPルームにと合計41カ所に美唄の桜を展示していただきました。

雪の力が結ぶIT、農業、福祉の多面展開

―本間さんが主宰する「ゆき塾」とは何ですか?

本間 前身の「美唄雪山職人養成学校」から名称を新たに変えた我々の勉強会のことです。主に新しい会員を対象に、雪に関する座学や雪山造りなど実作業への参加をポイント制にして、規定を満たしたら「雪山職人」の認定証とバッジを進呈します。

―お話をうかがっていますと、エネ研の皆さんは「真剣に遊ぶ大人の集まり」。その純粋なパワーが美唄を雪冷房の先進地に押し上げたのだと納得しました。最後にエネ研の今後の目標を教えてください。

本間 やはり話はまたWDC構想に戻りますが、もし誘致に成功した場合、サーバールームから出るおよそ40度の温風を別棟の植物工場やハウスに引きこみ、冬季の農作業に役立てることも夢ではありません。さらにその近くに老健施設を作り、軽作業を手伝ってもらえれば入居者のほどよい運動ややりがいにもつながっていく…こうした雪とIT、農業、福祉への多面的な展開が実現できたときこそ、"世界屈指のエコロジーなデータセンター"としてWDCの存在意義も一段と深まるだろうと期待しています。美唄市さんの全面的な協力に背中を押されながら、実現の日を目指して邁進していきます。


美唄自然エネルギー研究会

http://www.net-bibai.co.jp/eneken/

同会への問い合わせは
美唄市役所商工交流部商工労働課内の同会事務局へ

美唄市西3条南1丁目1番1号

TEL.0126-63-0111(直通)

mail:sangyou@city.bibai.lg.jp