元気な女子班は大根抜きに挑戦「大根が畑に埋まってる!」
着慣れないつなぎの作業服や、泥対策に片足ずつをすっぽりと覆うビニール袋。“農家モード”に入るには見た目が肝心。身支度を整え、やる気満々で美唄市の農家民泊にのぞむこの日の主役は、大阪府立阿倍野高校の2年生のみなさんだ。男子女子、各4名1班ずつの体験風景を追いかけた。
元気いっぱいの女子班は切山農園さんで大根抜きに挑戦。まずはトラックに乗って畑へ向かう。前日の雨で畑の土は柔らかかった。「足下、ぬかるから気をつけて、あ、“ぬかる”って大阪でも言うのかい?」切山さんの問いかけに「言いまーす!」と4人からの元気な返事が畑に響く。
「じゃあ、説明するから聞いてよ。これからみんなに大根抜きをしてもらいます。太そうな大根をまたぐようにしてつかんだら、両手で力一杯ひっぱってください。抜いたら葉っぱを2、3枚とって、その葉っぱを使って土をしごき落とす。さぁ、やってみようか!」「はーい!」
「そうそう、うまいわ」切山さんに見守られて。
あやかさん、まみさん、さやさん、ゆうかさんの4人組は早速狙った大根をむんずとつかみ、ぐぐぐっと力を入れて…「ぬ、抜けませーん」。思った以上の力仕事に焦る4人に、切山さんがすかさず「腰を落として。ほれ、がんばって!」と声をかける。
その直後に「やったー!」「重ーい!」歓声が次々と上がり、4人の手には泥だらけの大根がしっかりと握られていた。「今年は寒い日が続いたから大根も小ぶりが多い。料理には使いやすいね」と切山さんが解説する。
日頃から野菜は「めっちゃ好き」な彼女たちだが、畑に埋まっている大根を見るのはこの日がはじめて。ちなみに大根といえば思いつく料理は?と質問したところ、おでん、味噌汁、大根おろしといった回答の他に「えっ?たくあんて大根だったの?知らんかったー」という衝撃発言も飛び出した。
自分たちが日頃何気なく食べている料理には畑という出発地点があり、農家の地道な収穫作業があってはじめて食卓にまでたどり着く。「楽しかったね」「うん!」。自分たちが抜いた大根の手応えはそのまま、“大切に食べよう”という思いとなって彼女たちの胸にしまわれていったようだ。
「大根、大好きーー!」明るい笑顔の女子班
ハプニング&体力勝負の男子班「やつらを追いかけろ!」
続く男子班の現場は、川島農場さん。米や小麦、野菜の他に羊7頭を育てているため、修学旅行生は羊の世話を体験する。ところが、そこには思わぬハプニングが待っていた。
取材班の農場到着とほぼ同時に、なぜかいきなりつなぎ姿の男子高校生たちが羊小屋から猛ダッシュ!そのまま農道を駆け抜け、見る見る小さくなっていく4人の後ろ姿を呆然と眺めていると、その遥か先には豆粒大の羊たちがいた。なんと彼らは羊たちの大脱走を追いかけていたのだ!
脱走した羊たちは数百メートル離れた隣家で足を止めた様子。川島さんと男子班が追いつくと、もう満足したのだろうか、それ以上は逃げようとしなかった。そして自分たちで列を作り、川島農場の羊小屋に帰る道を何事もなかったかのように歩き出す。その後ろから“つ、疲れた?、でも見つかってよかった?”オーラを放つ川島さんと高校生たちが続いた。
カメラは見た!大脱走帰り道の決定的瞬間。
「もう逃げないでね」「てへ、ごめんなさい」
戻ってから事情を聞くと、どうやら羊小屋の清掃中に外に出していた羊たちが囲いがわりのネットを倒して逃げ出したのだという。お疲れさまでした、と声をかけるとさすがの10代も「しんどいです」の一言。「逃げたの、今日二度目なんです」…。「さぁさ、みんな、家の中入って!休憩しよ!おなかすいたろ!」川島さんの声にみんなの表情がゆるんだ。
家の中で待ちかまえていたのは、川島さんの奥さんお手製の焼きたてピザ! トッピングには川島農場の採れたて野菜がふんだんに使われ、生地となる道産小麦の「春よ恋」は前日の夜中までかけて川島さんが粉を挽いたものだという。こうした手間を惜しまない歓迎が、美唄の農家民泊を単に農作業を体験しただけではない、心に残る思い出に変えていく。
羊を追いかけたひと仕事の後のピザは最高!
ものすごい勢いでピザが消えていくのを見守る川島さんが、「いやー、みんな、がんばってくれたなー」とねぎらいの言葉をかけた。「どうだい、おいしいかい?」と聞くと、食べることに忙しい4人が一斉にうなずいた。
「あのさ、“医食同源”て言葉があってね。人間、体にいいものを食べないと元気が出ないわけさ。こうやっておじさんたちに会うことで、国内の生産者の顔が見えてくるでしょ。若いみんなにはつとめて国産の安全なものを食べてほしいんだよね」。川島さんの話に稲田くん、上藤くん、坂本くん、加藤くんの4人は真剣に聞き入り、「農家さんの体力と根性はスゴイです!」と一人が言った。
今回の「農家民泊」取材にご協力いただいた切山農園さん、川島農場さんを含め、美唄の農家の思いは一つ。“若い世代に農家の姿を伝え、命と食について大切に考えてもらいたい”。そう願いながら、美唄の農家は毎年両手を広げて子どもたちとの出会いを楽しみに待っているのであった。
高校生にも農家にも大切な思い出になる記念写真。


