2008.05.20

カテゴリー【特集】File.00

障がい者雇用で“日本の会社”の原点を貫く 砂時計のある会社・日本理化学工業 後編

神奈川県川崎市に本社工場がある日本理化学工業株式会社が、重度障がい者の雇用を始めてほぼ半世紀。昭和42年に設立された美唄工場でも社員28名中、障がい者が7割を占める。雇用問題に激しく揺れる日本でいま、日本理化学工業の工場から生まれる白いチョークは何を描こうとしているのか。

同じ炭酸カルシウム素材
ホタテの貝殻に着目

チョークの成分は炭酸カルシウムと水

チョークの成分は炭酸カルシウムと水、つなぎ役の粘結剤の3種類。カラーチョークのときは着色剤を加える

知的障がい者雇用に力を注ぐ日本理化学工業(本社工場・川崎市)では、第二工場の建設を岡山方面に計画していた。ところが、福祉のまちを目指す美唄市から「ぜひ来てほしい」と幾度も誘致を受け、その熱意に応える形で美唄工場が誕生したというのは、前回までの話。

チョークの主原料である炭酸カルシウムは道内にないため、美唄工場では本州から調達していた。「実は昔から道内の原料を探していたのです」と西川工場長が明かしてくれた。そして美唄工場設立からおよそ40年後、北海道立工業試験場から“ホタテの貝殻リサイクル構想”が持ち込まれた。ホタテの貝殻も石灰石も同じ炭酸カルシウムからできている。ホタテ貝殻配合チョークが実現すれば、北海道の廃棄物リサイクルにも貢献することになる。同社初の産学官連携プロジェクトが動き出した。

逆転の発想が生んだ配合率10%
教育現場から「書きやすい」の声

アンケートによると生徒からの評判もいい

道内の小中学校を対象としたアンケートによると「文字がはっきりしていて(中略)子ども達が“見やすい”と言っていました」と生徒からの評判もいい

ホタテ貝殻配合チョークの完成までには、大きな二つの壁があった。最初の難題は貝殻をチョークに適する5ミクロン(1ミクロンは千分の一ミリメートル)までに粉砕すること。貝殻はホタテ養殖が盛んな長万部町で租粉砕を行い、その後苫小牧市の精密粉砕工場が粉々にする。そのはずが、「一般に小麦粉が20ミクロンのところ、我々が求める5ミクロンは粉砕工場にとっても未知の領域だと言うのです。さらに困ったことにホタテの貝殻は形状がまちまち。従来のラインに沿って流れないことが判明し、スタート時点からつまずいてしまいました」。そこから数カ月をかけて機械を改良し、ようやく平均5ミクロンの良質なホタテ貝殻粉末ができあがった。

第二の壁は材料の配合そのものだった。目標は、北海道が認定する『北海道認定リサイクル製品』の基準「リサイクル資源を50%以上用いなければならない」条件をクリアすること。ところが基準の配合率で何カ月試作を繰り返しても、出来上がるチョークは硬くなりすぎて書けば黒板に傷がつく。品質が落ちれば教師たちに評価されない。関係者は頭を抱えた。

じきに原因が分かった。「ホタテの貝殻には強度を上げてしまう効果がある。それならばと、この効果を利用してチョークに配合する粘結剤を少なくし、さらにホタテの配合率も10%に下げてみたのです」。その結果、チョークの品質が劇的に上がった。なめらかな書き味とソフトなタッチで黒板への載りもいい。試し書きをした教師たちから絶賛の声が集まった。「配合率が少なくても年間5万5千本作るチョーク全部にホタテの貝殻を10%入れるだけで年間100トン近くが消費できる。しかも今までよりいい製品ができるのであれば、先生達からも喜ばれる。メーカーとしては本望です」。平成17年、待望のホタテ貝殻配合チョークが誕生した。

「ホタテの貝殻が呼んでいた」
北海道リサイクルブランドに仲間入り

写真左は食堂でのお昼どき
「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司著 あさ出版)

写真左は食堂でのお昼どき。ベストセラー「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司著 あさ出版)に同社の紹介と共に川崎工場を見学した小学生の感想文も掲載されている。写真右はその原本

ホタテ貝殻配合チョークを評価する声はその後も大きくなっていった。配合率に不安を感じながらも申請を出していた北海道リサイクル製品認定制度の審査でも、「原則基準の配合率には及ばないものの製品自体の価値は大きい」と注目を集めた。教育現場の最前線である教室でホタテ貝殻配合チョークが使用されることは、リサイクルの仕組みやエコ活動の意義を子ども達に伝える一番身近な教材となる。とはいえ、配合率10%の前例を許せば安易に追随する案件が増えるのではないか。悩んだ道は最終的に「道内の循環資源の利用促進や環境教育の推進に一定の効果があると認められる場合などについては、個々に適否を判断する」という一文を審査基準に加えることで、日本理化学工業のホタテ貝殻配合チョークを北海道リサイクル製品に認定した。西川工場長は認定時の感動をこう語る。

「このチョークでリサイクルを勉強する子ども達のために北海道がそこまで考えてくれたとは感激の一言です。大山会長も大変お喜びで、“西川くん、40年前に岡山ではなく美唄に工場を作ったわけが今やっとわかったよ。このホタテの貝殻が呼んでいたんだ”と、これまでの道のりを感慨深そうに振り返っておられました」

平成19年、神戸市の市民団体から同社に依頼がきた。兵庫運河の水質浄化を目的に養殖されたアコヤ貝の貝殻を活用してほしいという。09年に完成した新たなエコチョークは同社から兵庫県の子ども達にプレゼントされた。

日本理化学工業を見学に訪れる企業や学校、報道関係者は多い。障がい者の能力に合わせた工程づくりや意欲を後押しする1人1人の目標、月間MVPの表彰など、心の通ったひと工夫に見学者は胸を打たれて帰るという。効率や利益を重視する欧米型企業が増えていく昨今、日本理化学工業は“社員とその家族を大事にする”日本型企業の原点を貫いている。「社会に役立ついい製品を作っている会社をたどってみれば、社員がいきいきと働く障がい者たちだった。それが当社の姿なのです」。西川工場長の言葉がいつまでも心に残る。

日本理化学工業株式会社 美唄工場

日本理化学工業株式会社 美唄工場

【URL】http://www.rikagaku.co.jp/syougai/syougai.htm
【問い合わせ】美唄市東明二条3丁目2-10 TEL0126-63-4241
【創業】昭和42年9月
【社員】28名 ※うち重度知的障がい者12名、軽度知的障がい者9名