2008.08.04

カテゴリー【特集】File.00

中西圭三「美しい唄」コンサート インタビュー&ライブレポート 2009年7月5日。美唄の歴史に、いや、「美唄の記憶」に新たな1ページが加わった。それはアルテピアッツア美唄で開催された中西圭三さんの「美しい唄」コンサート。美唄に惚れ込み、「このまちで唄いたい」という5年越しの夢をかなえた中西圭三さんへのインタビューとライブレポートをお届けします。

面影のまち美唄で記憶に残る唄と時間を届けたい。

「美しい唄」への思い

コンサート前日、「美しい唄」への思いを熱く語る中西圭三さん。

―美唄でコンサートを開くことが夢だったとお聞きしました。

中西圭三さん(以下:中西さん) 5年前、旭川から札幌へ向かう途中の高速道路で「美唄」という看板を見かけまして。一緒にいたスタッフの方から「美しい唄」と書いて「びばい」と読むことを教えていただき、興味を持ったんです。そのときにスタッフの方が「ちょっと寄ってみましょう。いいところがありますから」と連れて来てくれたのが、ここ、アルテピアッツァ美唄でした。

―そのときの印象は?

中西さん ちょうど夏だったのかな。緑が深くて、そこに自然と調和した安田侃さんの彫刻があって、古い木造校舎があって……。やわらかくてやさしい印象でした。なんてピースフルな場所なんだろうと感激し、ここで唄いたいと強く思うようになりました。ご縁があっていろいろなまちを訪れ、コンサートをさせていただいています。そのたびにその場所が好きになり、素敵な思い出を持ち帰ります。ただ、美唄のように「ここで唄いたい」という気持ちが先に立ったのは自分でも初めての経験でした。

ピアニストのコーニッシュさん

「中西さんは音楽人としての才能、人格ともに尊敬できるアニキ的な存在です」と語るピアニストのコーニッシュさん。

―「美しい唄」コンサート実現にあたってのご苦労は?

中西さん 実は、僕は何にもしていないんです(笑)。全部、ここにいる岸くんにおまかせでしたから。岸くんから「美唄でコンサートをやりませんか?」と連絡をもらったとき、ふたつ返事で「やろう、やろう!」と。それからは岸くんがすべての環境を整えてくれたので、僕はピアノのコーニッシュくんとここに来るだけ。岸くんが抱えていたであろう不安を考えると、申し訳ないくらいです。今回、僕の思いに賛同してくれたコーニッシュくんにも、そして岸くんにも本当に感謝しています。

コンサートの立役者、岸孝志さん

「美しい唄」コンサートの立役者、岸孝志さんは美唄在住のミュージシャン。

―迎える側の岸さんも相当不安だったのでは?

岸さん 本当に開催できるのかという不安よりも、数年ぶりに連絡した中西さんがまだ「美唄で唄いたい」と思ってくれているのかという不安の方が大きかったですね(笑)。でも、「やろう」と即答していただいたときに、その不安は「絶対に実現させてみせる」という情熱に変わりました。

―コンサートのテーマは「美しい唄」。名曲、という意味でしょうか?

中西さん 「美しい唄」とは、「美しい時間がそこにあった」という記憶だと思うんです。大切な人がそばにいたこと、その誰かと共有した時間、がむしゃらだった自分、昔見ていた風景、そいう記憶がよみがえり、気持ちの中に流れてくるものが、その人にとっての「美しい唄」だと思うんです。  そういう意味で考えると、美唄には「美しい唄」がたくさんある。かつて炭鉱でにぎわったときは9万人もあった人口が、今では3万人近くですか。およそ6万人の人が美唄を離れ、この日本のどこかでときどき美唄を思い出しながら暮らしているはず。もう使われていない映画館や我路のまちなど、人々が暮らした面影が美唄にはたくさん残っている。それを見て寂しいという人もいるかもしれません。でも、残っていることこそが宝物なんです。美唄のまち全体があたたかい面影でできている。その面影はきっと、まちを離れた人を今も癒してくれているのではないでしょうか。

一眼レフカメラを向ける中西さん

アルテピアッツァ美唄を散歩しながら趣味の一眼レフカメラを向ける中西さん。

―中西さんがご自分の事務所を立ち上げてから、唄に対する意識は変わりましたか?

中西さん 僕がかつて身を置いていたのは大きなショービジネスの世界でした。そこから抜け出し自分の足で歩き始めたときに初めて、唄う環境を自ら作り上げることの大変さを知りました。だからこそ大きなステージからではなく、声の届く距離で自分の気持ちを伝えたい。自然界と同じように人間にも季節はめぐります。七転八倒しながら人はめぐる季節を生き抜く。僕も今を生きる一人の人間として、リアルな目線で見たものを等身大の唄にして伝えていきたいです。

―明日のコンサートに向けて、今の意気込みをお願いします

中西さん 明日は美唄の方々に思う存分楽しんでいただけるよう、心をこめて唄います。言葉に耳を傾けながら、いろいろな風景を思い出してほしい。いろんな世代の方々がそれぞれのタイムマシーンに乗った気持ちになってくれたらうれしいですね。サプライズも用意しています。ぜひ、楽しんでくださいね!

アルテピアッツァの森に「美しい唄」が響いた夜

アルテピアッツァの森に「美しい唄」が響いた夜

 美唄にやっと訪れた夏の日差しが降り注ぐ7月5日日曜の午後、アルテピアッツァ美唄には中西圭三さんのコンサートを心待ちにしていた美唄の人々が長い列をつくっていた。いよいよ、「美しい唄」コンサートが幕を開ける。

オープニングアクトの「DREADNOTE」

オープニングアクトの「DREADNOTE」。右から岸さん、野澤尚生さん

―会場の期待感を盛り上げたオープニングアクト

 開場まで3時間もあるというのに、会場となったアルテピアッツァ美唄の体育館前には待ちきれないファンの長い列ができていた。17時30分の開演時間が来るとあっという間に約300人が会場を埋め尽くす。子ども連れの家族や年配の夫婦、40代の友人同士など幅広い世代が顔を揃えていることからも中西さんの支持層の厚さがうかがえる。

 オープニングアクトのトップバッターは滝川市で活躍するバンド「地平線」のTOSHIさんが務め、続いて今回のコンサートを企画した岸孝志さん率いる「DREADNOTE」が登場。この日に合わせてリリースした初のフルアルバム『Songs for you』から6曲を披露した。手拍子に弾む会場は徐々に盛り上がりを見せていく。

喜びを語る中西圭三さん
コーニッシュさんとの息もぴったり

パートナーのピアニスト、コーニッシュさんとの息もぴったり。

花束を受け取り、目を細める

会場の女の子から花束を受け取り、目を細める場面も。

―5年の歳月を越え、ついにたどり着いた場所で熱唱

 オープニングアクトが終わり、期待に満ちた沈黙を破るかのように、スポットライトを浴びた中西圭三さんが颯爽と登場!

 「やっと来れたぁ!!」

 美唄のファンの前で中西さんが発した第一声は、あたためていた思いの大きさを物語っていた。その言葉に拍手を送る観客もまた、中西さんを迎える日をどれほど楽しみにしていたことか。

 この日5年越しの夢が実現したこと、美唄の記憶に1ページを刻めることの喜びを語った中西さん。音のパートナーはピアノだけ、という実力派の中西さんならではのステージ構成だ。ヒット曲『眠れぬ想い』を含む、力強くもやさしさをにじませる歌声に、観客はたちまち惹き込まれていった。

 そこで中西さんはコンサート当日の朝、コーニッシュさんと市内をドライブしたエピソードを披露。立ち寄った炭鉱メモリアルパークで、石炭産業に沸いた当時の美唄を写真で振り返ったとき、かつてそこで命を燃やし生活していた人々の面影を感じ、何とも言えない気持ちになったと打ち明けた。さっきまで中西さんのトークに声を上げて笑っていた人々が静かにただうなずく。観客全員が記憶の中に眠っていたありし日の美唄に思いを馳せていたのかもしれない。

―クライマックスに待ち受けていた贅沢なサプライズが

中西さんの思い

『美しい唄』を熱唱。中西さんの思いが会場に響き渡った。

 コンサート開始から1時間を過ぎ、アルテピアッツァ美唄の森に夜の静けさが訪れても、中西さんの熱唱は続く。家族のために生きる男の覚悟を唄った『帰り道』、今を積み重ねて人は前に進むというメッセージを込めた『次の夢』、人生をともに歩む夫婦の愛を歌詞に綴った『STORY』など、全13曲を熱唱。その1曲1曲がやさしいピアノの音色とともに観客たちの心に刻まれていく。やがて、コンサートは名曲『道』で終了。会場の拍手は鳴り止まず、アンコールに応えた中西さんはスローバラード調の代表曲『WOMAN』を歌い上げる。この時点で開演から2時間が経過。そしてここからさらに夢のような時間が始まった??。

 「今日、みなさんにプレゼントがあります。美唄を思いながらこの日のために唄を作りました。美唄が持っているたくさんの記憶、美唄の思い出を、美しい唄のように心に残している人たちへ、この唄を贈ります」

 それは素敵なサプライズだった。この日のためだけに中西さんが作詞・作曲した、その名も『美しい唄』が、静かなピアノのメロディに合わせ、語るように唄われた。

♪夢も明日も 毎日の中で   
 野辺の小さな花のように   
 力いっぱい 命を歌った   
 二人生きてた 色あせない記憶

 こう繰り返されるサビのフレーズは、人々の心に流れるそれぞれの思い出、まさにひとりひとりの「美しい唄」を呼び起こした。

『ぼよよん行進曲』は中西さんお気に入りの一曲

『ぼよよん行進曲』は中西さんお気に入りの一曲。踊りを交えながら会場をひとつに。

『Choo Choo Train』で夢のセッション

最後の曲『Choo Choo Train』で夢のセッションが実現。

アカペラで『星に願いを』を独唱する中西さん

アカペラで『星に願いを』を独唱する中西さん。暗闇の中に響き渡る澄んだ声は、まるで夜空に広がる無数の星のように、会場を包み込んだ。

―そして、夜の森は魔法にかけられた

 アンコール3曲目はNHK教育テレビ『おかあさんといっしょ』で人気を集めた『ぼよよん行進曲』。客席では曲に合わせて踊りだす子どもたちの姿も。手拍子とともに世代を超えて盛り上がった。

 そして「この勢いでもう一曲!」、オープニングアクトで登場した2組も呼び寄せ、全員で送るのは、そう、あの『Choo Choo Train』!会場のボルテージは一気に沸点へと達し、この日何度も訪れた会場がひとつになる瞬間で「美しい唄」の時間は幕を閉じた。そう、誰もが思っていたのだ。ところが。

 惜しみない拍手に送られ、出演者たちがステージを立ち去っていく。と、背中を見せていた中西さんがくるりと振り返り、会場の中央へ戻って来た。すぅっと息を吸い込むと、なんとアカペラで『星に願いを』を独唱。水を打ったような静けさの中にマイクを通さない中西さんの歌声が深く豊かに響き渡る。目に涙をためる人もいた。

 最後の歌詞は「When you wish upon a star, your dream comes true」、そのメッセージは、「美唄の地で唄う」という夢をかなえた中西さんからのもう一つの贈り物だ。前日のインタビューで中西さんはこう言った。「今回のコンサートが成功したら、いつかまたやりたいな。次は僕がほかのアーティストを美唄に連れて来たい」。その夢がかなう日がまた来ることを誰もがきっと信じているだろう。いつまでも拍手を送る人たちに、夢のような魔法をかけたまま、「美しい唄」コンサートは大成功のうちに幕を下ろした。